
「自分の命を守ることを最優先に」

JF鏡町 代表理事組合長
徳田 司 さん
■ 地域に即した防災対策を
平成11年9月に発生した台風18号は、八代海沿岸地域に甚大な被害をもたらしました。最も被害が大きかったのは、12人が亡くなった松合地区ですが、対岸に位置するここ鏡町地区にも高波が押し寄せました。地区を流れる2つの川のうち、氷川では堤防が切れて、周辺の農地が海水に浸かりました。鏡川では、海から流されてきた船が堤防の上に乗り上げました。私の自宅は、高潮の被害こそなかったものの、竜巻のような風に屋根瓦がすべて吹き飛ばされました。
台風によるものを高潮、地震によるものを津波と言いますが、中小河川では狭い川幅に大量の波がどっと押し寄せるので、起きる現象としてはどちらも津波です。台風18号のとき、うちに助けを求めて逃げてきた親戚は、堤防を2メートルも超える高さの黒い波が川を逆流してくる様子を目撃しています。テレビやラジオで「予想される津波の高さ」が報じられますが、その認識でいたら危険です。漁業者は十分に理解していると思いますが、中小河川では、予想よりも高い波が来る可能性があることを頭に入れておかなければいけません。

■ 防災のプロとして啓発に尽力
漁業者になる前は、八代消防組合(現・八代広域行政事務組合)で消防職員として活動し、平成21年には消防長も務めました。そこで培った経験と、防災士としての専門的な知識を生かし、防災の啓発にも積極的に取り組んでいます。講演会では、貴重な体験や教訓が詰まった冊子「命の声」を有効に活用しています。そんな私が皆さんにぜひお伝えしたいのが、自助の重要性です。
「自助・共助・公助」という言葉がありますが、防災の基本は自助、つまり「自分の命は自分で守る」です。道路が寸断されるような大規模災害の場合、公助(外部からの支援)が始まるのは災害発生から3日後と言われています。それまでは、自分の命を守ることを最優先に考え、行動しなくてはいけません。利己的に聞こえるかもしれませんが、決してそうではなく、自分の命があって初めて人を助けることができる。災害時に人を助けるというのは、皆さんが考える以上に難しいことなのです。
鏡町地区は、漁業従事者が48戸くらいの小さな集落で、うち6割が高齢者です。年1回の総会のときは、「災害時は、水面からの高さがある橋まで逃げ、橋の欄干と自分の体をロープで結ぶ」など、命を守る具体的な方法を伝えています。また、自力で避難するためには最低でも2キロメートル以上歩ける体力が必要だと考えます。当事者意識を持って、日頃から備えておくことが防災の第一歩であり、引き続き啓発活動に尽力したいと思います。

「平成11年台風18号」
9月24日、瞬間風速66.2m/sを記録した台風18号は、九州・中国地方に深刻な爪痕を残した。強い強風域を伴う台風であったことに加え、八代海の西側に沿って北上したこと、大潮の潮位上昇時間帯と重なったことなどにより、被害が拡大。八代海では高潮・高波が発生し、湾奥部の不知火町松合地区では12人が犠牲となった。その他の地区でも、家屋の全半壊、床上・床下浸水が多数発生する大惨事となった。
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氷川の決壊箇所=竜北町若洲
(出典:熊本県危機管理防災課) -
松合祈念公園 鎮魂之碑
※所属・役職等は発行当時のものです。