
「訓練の積み重ねが大切」

JF海路口 代表理事組合長
槌田 栄一 さん
■ 先人の経験を防災に生かす
熊本県は昔から自然災害が多い土地です。平成28年には最大震度7の熊本地震が起き、有明・八代海に津波注意報が発表されました。津波から命を守るために高台に逃げるのが鉄則です。東日本大震災の映像を思い出し、私もすぐに逃げました。しかし、これまでに訓練などをしてこなかったので、慌てて逃げる人たちの車で道路は大渋滞しました。結果的に津波は来ませんでしたが、次の大災害に向けて課題を残しました。
そうした教訓も踏まえて、私たちの地区では現在、定期的に避難訓練を実施しています。「どこに、どのように逃げれば良いのか」が一目で分かる避難マップを作成し、食料の備蓄も行っています。日ごろから訓練をしていないと、熊本地震のときのように訳もわからずに逃げることになってしまいます。やはり訓練は非常に大事です。

■ 浜の仲間として助け合う
令和2年の豪雨は沿岸部に大きな被害をもたらしました。球磨川をはじめ複数の川が氾濫し、流域で多くの死者が出ました。海でも命の危険にさらされた方はたくさんいましたが、亡くなった方はいません。地域ぐるみで取り組んできた防災対策が生きたのではないかと思います。一方で、川から流れてきた大量のごみや流木が八代海にあふれ、しばらく漁業ができない状況が続きました。漁師にとっては死活問題です。
私たちは「浜の仲間として力になりたい」と声をあげ、すぐに行動を起こしました。被害が比較的少なかった地区の組合から船を出し、ごみや流木の片付けに向かったのです。建設業者の方もごみを積むためのガット船を出すなど協力してくれました。辺り一面にごみが広がり、現地は本当にひどい状況でした。途方に暮れていた八代海沿岸地域の方々は、手助けに来てくれたことをとても喜んでくれました。助け合いの大切さを実感した瞬間です。
私も海苔の漁をしているので、川から流れてくるごみや異物の問題は他人事ではありません。このときは、私たちが手助けをする側でしたが、今後は手助けをされることもあるでしょう。同じことは、漁業に携わる皆さんにも言えると思います。「同じ浜の仲間として、困ったときには互いに手を差し伸べる」。そうした助け合いが、命の危険にさらされる災害や事故からも、私たち漁業者の命を守ることにつながるはずです。

「 平成28年熊本地震」
4月14日21時26分にマグニチュード(M)6.5、16日1時25分にM7.3の地震が発生し、熊本県益城町などで最大震度7を記録した。同一地域で28時間以内に震度7の地震が2度発生したのは観測史上初。県内の人的被害は、死者270人、重軽傷者2,737人。住家被害は、約19万8千棟に上った。
沿岸部では、16日1時27分、有明・八代海に1メートルの津波注意報が発表されたが、観測はされなかった。
「令和2年7月豪雨」
7月3日夜から4日朝にかけて線状降水帯が停滞し、1日で7月約1カ月分の降水量を記録。その後も激しい雨が断続的に降り続き、河川の氾濫や土砂災害を引き起こした。
県内の人的被害は、死者65人、行方不明者2人、重軽傷者51人を数えた。住家被害は7,300棟を超え、道路や鉄道をはじめとしたインフラ施設、農林水産業などにも甚大な被害を及ぼした。
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海面に漂流するがれき
(写真提供:熊本県/
出典:熊本災害デジタルアーカイブ) -
海苔漁に使用する漁船
※所属・役職等は発行当時のものです。