命の声

命の声

「慣れは敵」

鹿児島県 種子島漁業協同組合

代表理事組合長

浦添 孫三郎 うらぞえ まごさぶろう さん

浦添 孫三郎さん

 2名の組合員が行方不明となった海難事故をご紹介します。こうした事故が二度と起こらないよう、『命の声』として皆様にお話ししたいと思います。
 事故は2月の末、ブリの幼魚であるもじゃこ漁が解禁した時期のことでした。組合所属船の中でも大型の9.1tの漁船に乗船していた親子2名が、海中に落ちて行方不明となったのです。前日から強風注意報、波浪注意報及び雷注意報が発表されており、海上は時化ていました。
 乗組員は全員で4名。行方不明となったのは、船長(60歳代)とその息子(30歳代)でした。船長はもじゃこ漁のベテラン漁師であり、組合役員としても活躍していた方でした。助かった2名によると、船内で休息していたところ船が大きく傾いて進んでいたため、その2名は危険を感じて救命衣をつけ、急いで海に飛び込んだということです。その時にはすでに船長と息子さんの姿は見えなかったそうです。人のいなくなった漁船はその後岩礁などに衝突し、座礁したと推測されます。漁船は上部が大破し、海岸で発見されました。
 助かった2名は海岸まで泳ぎ着いて救助を要請し、直ちに行方不明の2人の捜索が行われました。捜索活動は事故から1週間続けられましたが、2人を発見救助することはできませんでした。

 漁場や近海沿岸も知り尽くしていたあの人がどうして、という思いは僚船の誰もが思ったことでした。転落を目視した方は誰もいなかったものの、どちらかが転落し、もう1人が助けるために飛び込んだのだろうと想像されています。
 私からの『命の声』は、「慣れは敵」としたいと思います。今までにも、重大な事故に至ったことのない、超がつくほどのベテラン組合員が、「どうして」という危険な状況になることをいく度も見てきました。こうしたことは正に「慣れ」により、注意力が散漫になり、過信や見落としもあって起こっているのだと考えます。
 天候判断、操船、揚網作業、漁獲物の運搬や荷揚げなど、漁業者が最大の注意を払う場面は非常に多いものです。そして、これらの作業や行動の一つ一つに、重大な事故の原因が潜んでいるのだと思います。いかにベテランであっても注意を怠らず、その全てを確実にしっかりと行うことが、事故を未然に防ぐためには必要です。
 漁業者の高齢化は、全国においても同じ傾向だろうと思います。高齢で大ベテランの組合員たちが、地域の漁業を支えていることでしょう。だからこそ今一度、「慣れは敵だ!」と本人がしっかりと自覚し、家族や仲間とも声を掛け合い、海難事故防止に取り組んで頂きたいと思っています。

※所属・役職等は発行当時のものです。