命の声

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ホーム JF共済について 命の声 第2号 漁船海難事故 「命綱 海より好きな嫁の為」

「命綱 海より好きな嫁の為」

岡山県 日生町漁業協同組合

代表理事組合長

田丸 和彦 たまる かずひこ さん

田丸 和彦さんの写真

 昨年(2022年)11月に操業中の海難死亡事故が発生し、小型底曳網漁業を営む50歳代の大切な組合員を亡くしてしまいました。
 当日の海況は普段通りの凪であり、僚船も出漁していました。えび漁が期待できた状況から夕刻一人で出船して、網を曳き明け方に戻るという計画でした。
 一人乗りであったので、事故を目撃した者はいませんでしたが、朝になり僚船が事故のあった船の異常に気付いたのです。船上に人影はなく船が進んでいました。
 本人は底曳網を引き揚げるネットローラーのそばに倒れていました。救急車で直ちに病院に運ばれましたが既に死亡していました。事故の原因は何かの拍子でネットローラーに巻かれ、体が圧迫され、頭を強打したものと推測されました。ネットの中からは本人が着用していたカッパが出てきましたが、本人の体はローラーの外であったため、自力でネットの中から脱出したと考えられます。
 組合の『命の声』として、出漁船が毎日目に付くように組合荷捌所の海側に「命綱(ライフジャケット) 海より好きな嫁の為」を大きく描いて呼びかけています。
 過去にも今回と同じようにネットローラーに巻かれてしまう事故があり、ローラーが自動停止する安全装置の設置を勧めたり、その助成なども行われていたのですが、残念ながらこの漁船にはこれら装置は付いていませんでした。今更ながらこの事故を教訓に安全装置の普及が進むことを強く望んでいます。
 海難事故といっても今回の漁労機械に関係することや転落事故、時化や異常気象によるものなど様々な形態や状況があります。そして安全操業ではその全てに気を付けることが求められます。漁業者によって家族や仲間のためとはいっても、その人その人で生活環境も考え方も様々でしょう。組合員皆が安全操業を行う意識が重要なことはもちろんですが、ライフジャケットのように着用の義務と怠った場合の厳しい罰則が不可欠であると強く思います。そうしなければ、このような事故の記憶をいつまでも持ち続けることによる事故防止には必ず限界があるでしょう。
 事故に遭遇した方は非常に仲のいい家族であり、特に奥さんは見ていても心配になるほどの落胆ぶりでした。この事故の教訓を伝えてほしいと言われれば、「家族のため」「奥さんのため」に事故に注意をして欲しいと訴えること、そして危険が伴う漁労に対する「安全への投資」になります。後で聞いた操業前のご本人の様子から、相当に疲れていての出漁であったことも伺いました。海に出ていく本人はもちろんですが、家族の見守りもまた大切だと感じています。

※所属・役職等は発行当時のものです。