命の声

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ホーム JF共済について 命の声 第2号 漁船海難事故 「悲観的な天候判断、愚直な基本動作」

「悲観的な天候判断、愚直な基本動作」

公益社団法人 日本水難救済会

理事長

遠山 純司 とおやま あつし さん

遠山 純司さんの写真

 この度、この『命の声』の刊行にあたり本会に声をかけて頂き、JF組合員相互の助け合いの一助になれますことにこころから感謝をしております。
 ご存じの方も多いことと思いますが、日本水難救済会は明治22年金刀比羅宮の宮司が初代会長となり発足した大日本帝国水難救済会が始まりであり130年以上の歴史があります。全国には約1300の救難所があり約5万人の所員の皆様にご活躍を頂いています。また救済会発足以来の救助人員は約20万人、救助隻数は約4万隻を数えます。
 本救済会の職員の多くは海上保安庁に勤務していた経験を持ち、私自身も巡視船を含め管区海上保安本部等の現地経験や海上保安職員への教育指導の経験等から、漁業者、JF組合員の皆さまに向けたメッセージとして『命の声』をお伝えしたいと思います。

「悲観的な天候判断、愚直な基本動作」
~待てば次また行ける。 待たねば人生が終わる。 常に備えて海へ!~

 海は2つの顔を持っており、凪の日の優しい表情と荒天の日の人に襲いかかる険しい表情があります。こうした海ではどんな手段を駆使しても「自然の力」にあらがうことはできないのです。
 海を知り、少しでも危険を感じる状況であれば「悲観的(慎重)な天候判断」で出船を取りやめることが何よりも大切であると考えます。また、言い古されたものではありますが、漁船設備・機器の安全点検、僚船との行動や見張り、計画的な航海、ライフジャケットや着衣の安全など、それぞれ全てが重要なことは理解されているものの、沖に出る時には毎回必ず確認を行うことを改めて強調させてもらいたいと思います。

以下に留意するべき 13 の項目を上げます。

  • 日頃の安全点検、定期検査等の受検、定期的メンテナンス、訓練の実施
  • 出港前点検(各機器、救命設備、通信機器、水漏れ、電気系統、燃料系統、開口部閉鎖)
  • 荒天準備(開口部の密閉、ライフラインの展張)
  • できればなるべく僚船と行動⇒相互ケア
  • 必要な人員の配置
  • 陸上管理部との連絡設定
  • 気象・海象の悲観的な(慎重な)確認と出港の可否確認(全責任者が共通認識)
  • 航海計画の確認、航路上の危険物、航行船舶の輻轃度等確認
  • 適切な服装(袖・裾、安全靴、ヘルメット、救命胴衣、命綱)
  • 船上危険物、危険機器の慎重な取扱い、緊張ロープ、重量物件の下への接近禁止
  • 常時、必ず四囲の見張りを立てる
  • 船舶事故、人身事故発生時の迅速・的確な初動措置
  • 海上保安庁への迅速通報

 現在、全国各救難所の5万人の所員のうちの約80%の4万人がJF組合員を中心とする漁業者の皆様です。出動要請にあっては自らの生業を投げうって昼夜を問わず人命救助にあたって頂いていることに常日頃心から感謝をしております。また、皆様がいることでわが国の沿海の安全が守られていると認識しています。
 漁業者のみなさまがこうした「声」を相互に伝え合い、「命」を守るために取り組まれていることに衷心より敬意を表します。

※所属・役職等は発行当時のものです。