命の声

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ホーム JF共済について 命の声 第2号 漁船海難事故 「ライフジャケットは漁業者のユニフォーム」

「ライフジャケットは漁業者のユニフォーム」

公益社団法人

北海道海難防止・水難救済センター

専務理事

久保田 くぼた 八十夫 やそお さん

大井 誠治の写真

 北海道ではかつて年間300隻を超える海難事故が発生し、200名近くが死亡・行方不明となっていました。当センターは、海難事故を未然に防止するための団体として昭和49年に発足し、中でも死亡・行方不明となる確率が最も高い、海中転落事故防止の啓蒙に力を入れてきました。当時の事故の多くはライフジャケットの着用がなかったこと、転落者の大半が泳ぐことができなかったこと、海水温が低いことなどが高い死亡率の要因でした。海中転落で死亡する割合は、当センターが発足した当初は80%を超えていたものの、近年では60%を切るまでになっており、ライフジャケット着用率の向上による効果だと思っています。
 私からの『命の声』は、「ライフジャケットは漁業者のユニフォーム」とします。この言葉は、当センター歴代の理事長が常日頃から浜の皆さんに訴えてきた言葉でした。
 ライフジャケットは関係法令の改正により、平成30年2月から着用範囲が拡大され、すべての小型船舶の乗船者に着用が義務化されましたが、一方でライフジャケットを着てさえいれば命が助かるというわけではなく、やはり日頃からの安全に対する心構えや知識が必要と考えます。
 海中転落は、出来るだけ早く本人を発見し救助することが重要です。1~5度の水温であれば、15~30分で意識不明に至るとされ、特に水温が低ければ低いほど、早い救助が必要となります。近年では、自分の位置を発信し仲間や周囲へ救助を求めることができる機器が開発されており、救難所や海上保安庁からの早い救助も期待できます。また、体温を少しでも長く保つための浮遊姿勢を知っておくことも重要だと考えます。当センターでは、過去に海中転落者が漁船に戻るための設備として、梯子(ラダー、タラップ)が必要だと声を上げたこともありましたが、残念ながら普及されることはなく、操業、航行の妨げとなるなどから、自主的に設置されることもほとんどありませんでした。海中転落の経験がある方であれば、その重要性を理解して頂けると思います。自らの命を守る方法は他にもあるでしょう。
 いずれにしても、海中へ転落した際に、ライフジャケットを着用していなければ、救助を求めることも浮遊姿勢をとることも、船へ這い上がることも非常に難しいことだと思います。さらに、着用がない場合、高い確率で行方不明となり、一般の生命保険は、死亡認定されるまで長期間保険金を受け取ることができず、残された家族が生活に苦しんでしまうこと、仲間の漁船が操業を中止し、かつ危険をかえりみず時化の中でも捜索を行うことも改めて認識していただきたいです。多くのみなさまは、身近で事故が発生するとしばらくはしっかり安全対策をされますが、日々忙しく漁業を営むなかで、次第に安全意識が薄れていき、仲間や家族との会話でも話題に上らなくなっていくのではないでしょうか?
 毎日漁船に乗るときに注意を怠らないという心構えこそが、命を守るための最も重要なことであるように思えます。
 みなさんの命は自分だけのものではないことを出漁前に思い返し、ライフジャケットを必ず着てほしいと思います。

※所属・役職等は発行当時のものです。