命の声

命の声

「自分の命は自分で守らな」

和歌山県漁業協同組合連合会

代表理事会長

和歌山県水難救済会 会長

木下 𠮷雄 きのした よしお さん

木下吉雄さんの写真

 20年ほど前になりますが、当時、和歌山県では8か統の中型まき網船団がありました。その中の1か統で、操業中に乗組員1名がいなくなりました。漁船から転落したものと考えられ、捜索した結果3時間後に海上で発見されました。しかし、引き上げたものの、命を救うことはできませんでした。この体験の後、海上で事故が発生してから、港へ引き返す間に、船上でできることはないのだろうかと考えました。それから1週間後に消防署に救命措置の研修を要請し、地域の漁業者を集めて蘇生法などを勉強しました。あの事故の時、自分にも何かできたのではないかという気持ちから、その後も命の大切さを思い、様々な試みをしてきました。
 現在、和歌山県の南に位置する紀南地区海上安全対策協議会という組織は、海上保安部、地域行政、そして漁協組合員などが協力し、活動しています。この地域では漁業者の高齢化が著しく、沖に出る組合員は非常に少なくなっていますが、プレジャーボートや遊漁者などが多いため、海保や救難所の出動は頻繁にあります。協議会では、注意喚起の広告塔を設置しています。磯や防波堤での釣り人や夏場の海水浴客などへの地道なライフジャケット着用啓蒙なども行い、近年は子供たちの着用も定着してきています。
 また、南海トラフ地震については、30年以内の発生確率が70~80%と言われています。津波も想定されており、その地域で漁業を営む者にとって、『命の声』の創刊号は大変重要でありがたい情報でした。『命の声』を伝えて頂いた東北の皆様に心から感謝をしています。まだまだこの情報誌も十分に普及したとは言えませんので、これから地域の皆様へ紹介していきたいと考えています。
 私からの『命の声』は、「自分の命は自分で守らな」としたいと思います。誰かを助けたいと考えても、まず自分が安全でなければ決してできません。
 津波に備えるために漁船にはもちろんですが、車の中にもライフジャケットを常に積んでいます。このライフジャケットは、誰かに発見されたときのために住所と名前が書いてあります。また、ロープも携行しています。流されないように自分を固定するため、そして、誰かを救助する時のために非常に大切だと考え実践しています。
 一人の乗組員を救えなかったことが大きなきっかけでもありましたが、「人は海の中では生きることができない」のであり、また「命は何にも代えることができない」ものです。
 自分の命を大切にすることが、自分はもちろん仲間や家族のためなのです。

※所属・役職等は発行当時のものです。