命の声

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ホーム JF共済について 命の声 創刊号 東日本大震災 「空振りでもいいから避難指示に従う」

「空振りでもいいから避難指示に従う」

宮城・JFみやぎ
気仙沼けせんぬま地区支所 組合員

小野寺 捷 おのでら はやし さん

小野寺 哲男 おのでら てつお さん

宮城県気仙沼市

小野寺捷の写真

小野寺捷さん

小野哲男の写真

小野寺哲男さん

 当時、私たちはJFみやぎの気仙沼地区支所で、監視船『りあす』に乗って、密漁の巡回監視や通報があったときの出動などを担当していました。密漁者は高速の船で逃走します。そのため、監視船は、スクリュー式ではなくジェット式の機関を装備していました。しかも震災の2年前に新造した7.5tの船でした。
 大地震が発生したとき、陸上にいた私たちが真っ先に考えたのは監視船を守ることです。すぐに連絡をとり合い、船を沖に出しました。
 もともと私たちは遠洋漁業を経験しているベテランの漁師です。操船はもちろん、大きな波への対処の仕方など海に対する知識や経験も豊富でした。さらに、私たちが乗った監視船の馬力が大きかったことも幸いし、大津波を乗り切ることができました。
 実は、震災発生の数日前、気仙沼地区で海上避難の訓練がありました。震災発生後、このときの訓練で避難集合場所とした地点に、多くの漁船が集まりました。しかし、この水域は水深8mほどの浅い場所で、津波が非常に高くせりあがった場所であったため、多くの漁船が津波に呑み込まれてしまったのです。一方、私たちが乗った監視船は水深約30mの水域だったこともあり、津波を乗り越えることができました。もし、皆に避難するべき水深の知識があったらと、今さらながら思います。避難の訓練は、常に慎重に、そして徹底的にやるべきです。
 私たちは、津波を乗り切った後、一晩船で沖に滞在し、翌日、陸へ避難。その後、監視船『りあす』と共に、大島(陸の往来が出来なくなった離島)への救難物資の運搬を長期に渡り行いました。
 今でも考えるのは「船を守ること」と「命を守ること」です。
 組合員にとって漁船は非常に大切な財産です。命に匹敵するとも言えます。しかし、津波に呑み込まれたら、命はその瞬間にも無くなってしまいます。船だ、借金だ、その後の生活はどうなるんだと思うかもしれませんが、死んだ瞬間、そんなものは一切関係なくなってしまいます。私たちも監視船を守るために沖に出ましたが、一番大切なのは人の命。とにかく人の命が最優先です。
 私たちは『命の声』として、全国の漁業者や浜で暮らす皆様に「空振りになってもかまわない。とにかく行政が出した避難指示には従え!」とお伝えしたいと思います。

りあす船の写真

監視船「りあす」

※所属・役職等は発行当時のものです。