江ノ島弁天 〜鹿児島県垂水市〜

 「鱶九郎が来るぞ」と言えば、泣く子も黙ったほどじゃ。鱶九郎はタバコの花の季節に薩摩にやって来る人さらいだった。
 今日も鱶九郎と子分たちは十二人の娘をさらってきた。鱶九郎は夜を待って、娘たちを船にのせた。船を漕ぎだすと、急にあたりを深い霧が包んだ。全く見通しが立たず、困っているところへ「もし」という女の声がした。
 声の主を見ると、甲板に娘が立っている。「このあたりの海のことなら目隠しされてもわかる。私の言うとおりに漕ぎなされ」と娘は言うので、仕方なく鱶九郎たちは娘の言うとおり船を漕いだ。しばらくすると、島が見えてきた。「あそこにつけなされ」というので、島につけると、娘は様子を見てくると言って、闇に消えた。
 やっと霧が晴れて、ふと向こうを見ると鱶九郎は驚いた。今まさしく二隻の船がこちらへ向わんとしていた。そしてその船には弓を持った役人が乗っていた。あっという間に人さらいたちは、役人に捕まってしまった。
 娘たちはみな無事助かった。さてあの娘はどこへ行ったのだろうと皆で島を探したが、見つからない。さらわれた娘の中の一人が島のお堂をふとのぞくと、弁才天の像があった。その像は、あの娘そっくりの顔をしていらした。「弁天さまがお救いくださったのじゃ」と娘たちは手を合わせた。
 弁才天さまは海潟温泉のまん前に見える島、江の島にいらっしゃるんじゃ。



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